1972年に開学した兵庫医科大学 麻酔科学講座は、神戸大学医学部麻酔科学教室助教授の石田博厚先生を初代教授として迎え、1973年1月に開講し、1994年1月に大阪府立母子保健総合医療センターより太城力良先生が第二代教授として着任されました。
現在は第三代教授に廣瀬宗孝が2012年9月から就任し、現在に至ります。
はじめまして。当科では、手術やインターベンション治療を受ける患者さんの命を守るための麻酔管理、慢性疼痛患者さんの治療を行うペインクリニック、ガンなどで緩和ケアを必要とする患者さんの治療に関わる緩和ケア、そして手術前や手術後の管理に関わる周術期管理チームの業務を主に行なっています。兵庫医科大学病院における当科の最も重要な役割は、最新の高度な医療を提供し、命に関わる重症な疾患の治療や超緊急の対応を必要とする場合にも迅速に対応できる臨床体制を構築すること、そしてそれに対応できる能力をもつ麻酔科医を育成するための教育を行うことです。常に世界トップレベルの医療を提供するために、臨床研究や基礎研究を行うことで最新の医学レベルに根差した医療を提供できるよう努力しています。よろしくお願いいたします。
主任教授 廣瀬 宗孝
当院では、年間約6,000例の全身麻酔を行なっています。手術を受ける患者さんは病気を治すために手術を受けるという一大決心をされています。そして多くの場合、全身麻酔により問題が起こるということは患者さんの念頭にありません。実際、麻酔そのものによる重大な合併症は当院でも年に1例あるかないかです。しかし、われわれ麻酔科医にとっては、その患者さんは6000分の1かもしれませんが、患者さんやその家族にとっては1分の1です。麻酔は何事もなく、手術が円滑に行われ少しでも早く患者さんが回復するのが一番です。このためには、麻酔科医は起こりうる危険を常に予知し、それをさけるべく様々な手段を講じなければなりません。一般的に物事を悲観的にとらえるのはよくありませんが、麻酔は別です。常に最悪の状態を想定し準備を行い、何事もなければほっと安堵する、これが麻酔科医です。手術中、大出血があり生命の危険がせまったようなことがあっても、術後回診では何事もなかったように「具合はいかがですか」と患者さんに笑顔で語りかけるのが麻酔科医のプロ意識です。
手術センター 教授 多田羅 恒雄
心臓麻酔管理に精通した指導医が心臓麻酔に関する基本からトラブルシューティングまで幅広く教えることで、どのような症例が来た場合でも対応できる麻酔科医を育成しております。また当院は心臓血管麻酔に関する教育プログラムを有する心臓血管麻酔専門医認定施設として認定されており、心臓血管麻酔専門医を多数輩出しております。また経食道心エコー(TEE)認定医であるJB-POTや心臓血管麻酔専門医の取得を目指し、経食道エコーシミュレーターを用いた勉強会や臨床工学士による人工心肺に関する勉強会も定期的に行っています。今後は先天性疾患を含む心疾患のある非心臓手術患者さんへの対応といった管理の難しい麻酔症例が増えていくこともあり、特に力を入れて対応して参ります。
帝王切開を受ける患者さんの数は年々増加しており、麻酔科医が出産に関わる機会が増えています。母胎や胎児の急変時には超緊急の帝王切開が行われるため、瞬時に対応する能力が求められています。その超緊急帝王切開を安全に素早く対応できるように我々は高機能シミュレーターを用いたトレーニングを定期的に行っております。また緊急帝王切開だけではなく、気道困難対応(DAM: Difficult Airway Management)、産科危機的出血、局所麻酔中毒といった産科麻酔以外の分野でも役立つ緊急事態のシミュレーションを行っております。さらに「産科麻酔に参加しよう」や「KANSAI産科麻酔」にも積極的に参加して、産科麻酔のレベルアップを目指して奮闘中です。
小児麻酔は他のサブスペシャリティーと比較しても特異性が高く、成人と比べて予備能が低いために非常に繊細な管理が求められます。当院では小児麻酔の知識や手技を安心して学んで頂けるよう専門スタッフがマンツーマンで指導いたします。定期の小児外科手術症例は2回/週ですが、他科の手術でも小児症例は多数あり、さらに緊急手術が加わってきます。また当院で小児心臓血管外科手術は行っていませんが、専門医プログラム関連研修施設での研修が可能であり、充実した研修期間を過ごすことができると医局員からも人気があります。麻酔科専門医取得に向けて必要な知識や手技を取得するとともに来院される子供達に安全で安心感のある麻酔を提供できる体制を整えております。
超音波ガイド下神経ブロックは周術期でも麻酔科医がより質の高い術後鎮痛を提供し、患者さんの早期回復に貢献できる分野として急成長を遂げています。整形外科を中心とした四肢の神経ブロックはもちろんのこと、全身麻酔を受けることが困難な患者さんに対する区域麻酔だけでの疼痛管理や抗血栓療法中の患者さんへの区域麻酔対応など安全を第一にできることを最大限行っていくよう心掛けております。また解剖学的知識や安定した手技を習得し、区域麻酔学会認定医取得を目指して定期的なセミナー・勉強会を行っております。当講座が日本区域麻酔学会 第10回学術集会を主催することもあり、興味のある方は是非とも足を運んで頂ければと思います。
当院では全国でも有数の高機能シミュレーターを配備したシミュレーションルームがあり、学生や研修医に対する医学教育だけではなく、レジデントを対象としたトラブルシューティング、「産科麻酔に参加しよう」をはじめとしたセミナー、さらにはシミュレーター使用による学習効果に関しての研究活動まで幅広く中身の濃い活動を行っています。シミュレーターは日常診療だけではなく、危機的状況への迅速な対応力を養うことのできる貴重なツールとして絶大な力を発揮しています。これからも興味を持ってくれる若手の先生達と共に勉強していきたいと考えています。
大学院生に限らず、臨床研究を始めたい先生には必要な知識を提供し、また兵庫医科大学病院臨床研修支援センターの支援を受けることができるのでどなたでも安心して研究を開始することができます。臨床研究計画書や研究プロトコルの作成、データマネジメント、統計解析、論文作成の段取りを順を追って進めて参ります。日常の臨床で感じる疑問を解消することが医療の発展のために何よりも重要です。やる気のある先生達の参加を心よりお待ちしております。
周術期管理チームは手術前、手術中、手術後の患者管理をチーム医療で行うため、2016年4月に編成されました。現在の業務は、手術前の麻酔管理のための診察、禁煙指導、口腔ケアを行い、手術中の意識のない患者さんのお傍では常に患者さんが快適に手術を受けることができるように術中管理を行い、術後は感染対策、重症患者さんの集中治療を行っています。今後は術前の服薬管理、術後の早期離床を促進することにも力を入れたいと考えています。現在のチーム構成は、医師(麻酔科・疼痛制御科、集中治療部、歯科口腔外科)、看護師(手術センター、禁煙外来、感染制御部)、薬剤師(手術センター)、臨床工学技師、事務員(手術センター)です。
また麻酔科外来では、全身麻酔や脊髄くも膜下麻酔を受けられるすべての患者さんに対して、手術や麻酔を受けるために必要な診察や検査を行い、麻酔やその合併症について説明しています。
当院には麻酔科学・疼痛制御科講座と集中治療学(ICU)講座の2つがあります。毎朝8:00AMから麻酔科とICUの朝の症例検討会を行い、常に情報交換しています。レジデント1−2年目の麻酔科医は2ヶ月間ICUローテーションをし、ICU管理を学びます。重症患者の術後管理、内科重症患者のICU管理、治療を経験することで全身管理の知識向上や外科医との連携を学ぶことができます。
医学の進歩、外科治療の発展に、麻酔科学は重要な役割を担ってきました。麻酔科医は、呼吸、循環、体液、疼痛管理など全身管理の知識、技術を日々の臨床で高め、手術を受ける患者さんに貢献できます。
また麻酔科学には、さまざまな研究分野があり、興味は尽きません。
新生児から高齢者まで、幅広い患者状態に接することができ、他科と比べ、学ぶべきことが多いです。
多職種で協働する必要がある手術治療は、専門知識だけでなく現在最も必要とされているチーム医療を学ぶのに最適です。