兵庫医科大学麻酔科学講座のホームページを開いていただき、ありがとうございます。 兵庫医科大学麻酔科専門研修プログラムは、4年間の研修期間で、麻酔科専門医を目指すコースです。臨床研修修了後の医師3年目からこの専門研修プログラムに専攻医として入ることで、一般的には、専攻医2年の終了後の医師5年目の初めに(多くは4月末から5月に取得)は、麻酔科標榜医が取得できます。麻酔科標榜医の資格を取っておけば、もしもその後に転科して他科に進んだ時でも、麻酔科で学んだ知識‧技術が、病棟の重症患者の全身管理や緊急時の対応に大いに生かすことができ、患者さんにより良い医療を提供することが可能になるでしょう。そして、医師4年目もしくは5年目で専門医試験を受験し、無事に合格すれば、医師7年目で専門医機構に麻酔科専門医の申請を行い、医師8年目の春から麻酔科専門医を名乗ることができます。4年間の専門研修プログラムでは、手術室での周術期麻酔管理が中心ですが、これにより呼吸・循環・鎮静・鎮痛・輸液管理などの基本的な全身管理の能力と、気道確保や各種ルート確保などの緊急時に必要な手技や危機管理能力を磨く経験が得られます。また、麻酔科専門医取得後に見据える麻酔科のサブスペシャリティの分野は幅広く、数多くの分野があります。例として、ペインクリニック、緩和医療、救急、集中治療、心臓血管麻酔、小児麻酔、産科麻酔、脳神経麻酔、区域麻酔、輸液管理、周術期管理、術後疼痛管理など多くの分野があります。周術期管理は急性期医療において重要な分野であり、外科系担当医、看護師・薬剤師・臨床工学技士など多くの多職種との連携も学べます。希望により当院のペインクリニック部をローテーション研修することができます。麻酔科専門医取得後にペインクリニックの専門医となり、ペインクリニックで開業する医局の先輩も少なくありません。その他、大学病院である強みを生かし、その後のキャリア形成、大学院進学、基礎もしくは臨床研究、学位取得(医学博士号の取得)やサブスペシャリティに関する各領域の専門医や認定医の資格取得も各分野を良く知るスタッフがサポートいたします。
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みなさんが医学生だった頃、“麻酔科”に対してどんなイメージを持っていましたか?
2004 年からスーパーローテーション研修が始まり、1-3ヶ月程度麻酔科を研修された方は学生のときと少し違う印象をお持ちかもしれません。麻酔科の特徴とは、周術期の“全身管理のエキスパート"です。近年高齢化社会が進み、手術を受ける患者さんの年齢も高くなってきています。心臓や肺に合併症を持つ患者さんも増加してきますが、麻酔薬やモニタリングなどを含めた麻酔法の進歩、学術情報の蓄積、多職種が連携する周術期管理などによりこのような患者さんでも全身麻酔が以前に比べて安全に行えるようになってきています。麻酔科医は、術前診察により患者さんに対し、それぞれにあった麻酔法を考え、計画を立てます。手術中は、リアルタイムにバイタルサインや各種のモニター、投与薬剤、輸液バランスをチェックし、手術が円滑に進行するように外科医や看護師とチームで仕事をします。手術後も術後回診で術後管理や術後疼痛管理などに参加します。このように、麻酔科医は、単に麻酔を行うだけではなく、“手術という大きなストレスから患者さんを守る"重要な仕事です。
近年の医療に関するトラブルなどの報道により社会(患者やその家族)が病院に対する安全への期待は増しています。たとえば、病院の評価を行う日本病院評価機構においても、常勤の麻酔科医がいることが重視されます。これは、社会が病院に対し、安全に麻酔‧手術が行われることを強く求めている証といえます。このような背景から麻酔科医の需要は、現在の高齢化社会や高度な技術を要する手術(ロボット支援手術など)の増加を考慮すると、依然高いと考えられます。また、関連する分野(ペインクリニック、緩和医療、集中治療、心臓血管麻酔、小児麻酔、産科麻酔、区域麻酔など)においても、専門性の高い麻酔科出身医師の存在価値は重要視されています。
麻酔科の特徴は仕事のオン‧オフがはっきりしているところです。自分が麻酔を担当している間は、常に緊張を強いられますが、麻酔が終われば基本的に夜間など時間外は、当直医が担当し、安全性を高めるため当番性をはっきりさせています。これが、いつ呼ばれるかわからない受け持ち医制と大きく異なるところです。麻酔科では密度の濃い仕事を行った上で、残りの時間はプライベートの時間や休養の時間、家族と過ごす時間に充てることが可能です。特に女性医師が増加している現在、結婚・妊娠・出産・子育てに伴い産休・育休を経験したママさん医師も比較的仕事を継続しやすいこと、またこれらで一時的なブランクがあっても職場復帰しやすいことは大きなメリットと考えます。
最近は、麻酔科の重要性が一般社会にも広く認識されるようになり、麻酔科医をめざす医師が少しずつ増加しています。麻酔を研修する場所として、大学病院、地域の大きな医療センター、一般病院があります。それぞれの病院には特徴があり、麻酔の基礎を研修する上では自分が気に入った施設で研修するのがよいと思います。
そのうえで、少なくとも長い麻酔科医師人生の中で少なくとも一度は大学病院での勤務をお勧めします。なぜでしょうか? 一つの理由は、症例の豊富さです。外科系全科の麻酔を研修できるのは当然ですが、低心機能、低肺機能のため他病院で「麻酔ができない」と言われた患者さんが望みをたくして大学病院を訪れることも稀ではありません。通常、大学病院には、最高の医療機器と専門性を持ったスタッフがそろっています。あと必要なのは、自らの医療知識、技術を高めて、修練する気概であり、熱意をもって日々の業務に当たってほしいと思います。その際には、患者さんに関する情報収集、合併症への対応についての教科書・文献的な知識の学習、麻酔計画の立案、それを踏まえた上級医や主治医とのディスカッションが必要であることは言うまでもありません。何の合併症もきたさず麻酔が無事終了すればもちろんよいのですが、問題が生じた場合には何がいけなかったのかを反省し、それを次回に生かすことが大切です。問題発生時には速やかに上級医へ連絡・報告・相談を行ってください。緊急対応を要する場面は予測が難しい場合もあるため、平時からの心構え・準備が重要となります。麻酔科研修の最初の数年間は、年間300以上当しますが、決して惰性で麻酔をしてはいけません。一例一例を大切にする姿勢を養ってください。
麻酔に少し馴れてくると結果を「予測」できるようになります。たとえば吸入麻酔薬の濃度を上げる、もしくは鎮痛薬を投与すると「そろそろ血圧が下がるかな?」とか、硬膜外カテーテルから局所麻酔薬を投与すると「だいたい何分後に血圧が下がるか?」、などです。この「予測」は危険をあらかじめ認識するものですが、手術侵襲との兼ね合いで、必ずしも反応は同じではなく、個体差も含めて多くの因子が関係することを学びます。麻酔を安全に行うためには麻酔症例を多く経験し、教科書等により常に結果をフィードバックすることにより「予測」が可能になってきます。しかし、時々結果が「予測」に反することがあります。その時に「なぜ結果が違うのだろう?」という疑問が生じるはずです。これから麻酔科医を目指す皆さんには、これらの臨床から生まれる小さな疑問を大切にしてほしいと思います。先輩に聞いたとしても必ずしも納得のいく答えはないかもしれません。この疑問が「探究心」につながります。
医学の進歩、外科治療の発展に、麻酔科学は重要な役割を担ってきました。麻酔科医は、呼吸、循環、体液、疼痛管理など全身管理の知識、技術を日々の臨床で高め、手術を受ける患者さんに貢献できます。
また麻酔科学には、さまざまな研究分野があり、興味は尽きません。ご挨拶に際し、自分の恩師である多田羅恒雄先生が書かれた記事を一部引用させていただきます。現代の我々「麻酔科医」にとって、大変教訓となるエピソードだと思います。「尿量低下に対して晶質液の大量輸液を行った結果生じる術後肺水腫」の臨床経験が、多田羅先生が輸液に興味を持たれたきっかけだったそうです。
また、当時考えられてきた外科手術時に生じる「サードスペース」への疑問視が、さらなる学問的な発展(現在では、「サードスペースに移行する水の量はそれほど大量ではない」とする考えが主流になっている)につながったお話は、今のインターネット社会、スマホ世代、AI(artificial intelligence:人工知能)時代に生きる我々にとっても、貴重な教訓を与え続けてくれるものだと思います。
この例のように臨床では以前は「常識」とされていたことが、現在は一転して「非常識」となることがあること、臨床では経験だけでものを言うのではなく、証明するにはデータに基づく解析が重要であることを、記していただいておりました。「探求する心」を養い、「十分な下調べ(文献調査)」、「研究方法の詳細な検討」、「最後までやり遂げる根気と熱意」の重要性を説かれています。これらの貴重なメッセージを医局の若手の先生方と共有して、これからも前に進んで行けたらと考えています。
多くの将来楽しみな若い先生方に当科に興味を持っていただけたら嬉しく思います。どうぞよろしくお願いいたします。