第9回区域麻酔学会の際に行われたJ-RACEを受験してきました.神経ブロックは今では麻酔科医として必須の手技ですが,日々進歩しており新しい神経ブロックが毎年出てくるような状況です.手術室やペインクリニックで行なっている神経ブロックは,なんとなくできてしまっているという部分が自分にはありました.レジデントの先生方と一緒に麻酔をする機会も増えたこともあり,知識の整理ともう一度各神経ブロックの確認という意味で受験しようと考えました.
結論として,とても受けて良かったと思える試験でした.それに伴い勉強したことやまた勉強不足な部分がいかにあるかが分かりました.試験が終わってからも,神経ブロックに対するモチベーションがむしろ上がりました.
J-RACEの試験要項を見ていただくと,参考テキストとして以下のものが示されています.
①Textbook of Regional Anesthesia and Acute Pain Management
Hadzic's Peripheral Nerve Blocks and Anatomy for Ultrasound-Guided Regional
Anesthesia
神経ブロックに関する代表的な教科書で,図やイラストもわかりやすく綺麗です.日常診療でも神経ブロックの確認のため開くことがあります
②問題形式で学ぶ区域麻酔と疼痛治療
唯一日本語の本です.今回の試験に向けての勉強はこれを主体に行いました.
③Bonica's Management of Pain
痛みに関する有名なテキストです.
試験範囲は日本区域麻酔学会の教育ガイドラインが出題範囲ですのでそちらも確認しました.②を解くことで大体は網羅できるかと思います.
もちろん神経ブロックの各論も確認が必要です.多くの神経ブロックの本が出版されていますので再度各手技の確認を行いました.可能であれば画像で描出される構造物はその機能や成り立ちから確認しておいた方が良いです.
その他確認すべきものとしては,日本麻酔科学会から出ている「局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド」「安全な鎮静のためのプラクティカルガイド」です.もちろん日本ペインクリニック学会・日本麻酔科学会・日本区域麻酔学会が合同で出している「抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロック ガイドライン」も重要です.私が受けた試験ではこのガイドラインの問題が,診断と治療も含め多く出題されていました.
JB-POTでは超音波に関する問題も出題されますが,こちらの試験でもJB-POT程ではないですが簡単な超音波の知識を問う問題もありましたので,そちらの試験勉強をされたことのある方は確認だけで済む範囲です.
学会から試験問題の公表もなく,再現問題も私の調べた範囲では無いようなので(Amazonに合格者の方が作った問題集はあります.知識の穴埋めに使用しました.),不安に思われるかもしれませんが,おそらく他の先生方もこの程度しかやれることはありません.いかに知識を詰め込めたかと,臨床をちゃんとやっていますかという意図の問題も割と見受けられましたので,この試験を受けようと思われる方なのであれば多分大丈夫です.たぶん.
ペインクリニックで診療の経験があるからアドバンテージがあるかと言われると,頭頸部のブロックに関しては耐性がついているというか,手術室で行うよりも経験があるのであったと言えます.しかし,実際に受験した感じではペインクリニックというよりはむしろ手術室でのブロックを想定されている問題が多く出題されていましたのでぜひレジデントの先生方も受験していただき,お互い意見を交わしながら周術期も含めた麻酔の質を高めて行けると良いなと思います.
この受験記が皆さんの参考になれば幸いです.
2022年4月17日(日)に沖縄コンベンションセンターで開催されました日本区域麻酔検定試験 J-RACE2022を受験してきました。なかなか勉強時間が確保できずに苦労したので、私の体験記が参考になるのか分からないですが少しでも受験をされる方のお役に立てればと思います。
2019年より開始されたJ-RACEですが、2020年はCOVID-19の影響により中止となったため、今回が3回目の開催となりました。今まで手術室での区域麻酔については病院や組織の方針等、考慮すべき問題点が沢山ありますが、術中・術後の疼痛緩和目的で神経ブロックの適応があり患者さんの同意を得ることができて、外科医の了承も得ることができれば可能な限り行いたいと思い臨床業務に取り組んできました。またペインクリニックの臨床に役立つ知識を付けることもできると思い受験を決めました。
問題形式:マークシート100問 A-type(単純択一)またはX2-type(五肢複択)
試験時間:150分
合格率:70%程度(JB-POTと比較すると高めです。)
※試験を受ける上で大切なことは健康、鉛筆、時計だと思います。
まずは敵を知ることから始めようと思いJ-RACEに関する情報を集めようと思ったのですが、なかなか有力な情報がないことで躓きました。試験に関する最も有力な情報源としては区域麻酔学会学術集会の最終セッションで行われたJ-RACE対策講座(直前講習)だと思います。と言っても、開催されるのは試験の前日ですし、試験問題の内容に触れたりするのではなく、勉強をするのに必要なポイントについて教えて頂けました。もし将来的にJ-RACEを受験しようと考えている人にはオススメしたい講習会です。
敵を知ることを諦め、とりあえず受験要領にもある『問題形式で学ぶ 区域麻酔と疼痛治療 真興交易(株)医書出版部』の問題集を解くことから初めてみました。最初は難しくて分からないことばかりだと感じていましたが、普段臨床で感じている疑問が明らかになることも多く、勉強をしていくほど興味が沸いてきました。また問題集で出た解剖学的な位置関係や超音波エコー画像についての疑問点を『あっという間にうまくなる 神経ブロック上達術 真興交易(株)医書出版部』で確認して知識の整理を行いました。また臨床的にも非常に重要な『抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン』でブロック毎のリスク分類・休薬期間を確認し、『局所麻酔中毒への対応プラクティカルガイド』で対応の確認を行いました。当講座の廣瀬教授より『Hadzic's Peripheral Nerve Blocks and Anatomy for Ultrasound-Guided Regional Anesthesia』で調べながらの勉強を勧められましたが、私には時間がなく断念せざるを得ない状況でした。
試験を受けた正直な印象としては、なかなか難しい試験だと感じました。基本的な事項を尋ねる問題はX2-typeとなっているとの情報でしたが、答えの1つは分かるけどもう一つが分からないという状況に何度も陥りました。私の中では最後まで勉強不足感が否めず不完全燃焼な状況ですが、今回の試験のための勉強を通して、術中の神経ブロックについてより深く理解しようとするモチベーションアップに繋がり自分にとって良い影響を与えたことは間違いないと感じております。今後も安全で質の高い麻酔管理をするために区域麻酔がその一助となるよう、またJ-RACER仲間を増やしていけるよう勉強会を開催して参ります。